~100~(最終回)
視力があると星座は見えない「北斗七星は、視力がある程度悪い人だけに見える星座である」と、福岡伸一氏はその著書「世界は分けてもわからない」(講談社)で書いている。 皆さんは人工の光が一切無い山の中で星空を見たことがあるだろうか。六等星まで見えるその夜空は、光る砂で埋め尽くされて全面で輝き、すべての星座が見えない。 星座とは、明るい星しか見えない空で、点をつないで空想した架空の像だ。 皆さんが裁判員になった時、法廷に出てくる「事件」は星座に似ている。実際の事件は山中の星空のように、大小無数の事実で成り立っている。その中から、警察・検察が、事件の被告人を有罪にするために有効だと考えた点をつないで描いた星座が、その「事件」としてあなたの前に出される。 西洋と中国と日本では、星座が違う。 理由は、もし同じ明るい星だけをつないでも想像するものが違うことと、想像するものによって、拾う星が違うから。人間の主観で、取り上げる事実が変わるのだ。 裁判員の前に出されてくる星座は、もしかして明るい星を落としたり、少し暗い星でも重要な星が隠されているかもしれない。何しろこの星座は本物の空ではなく、捜査官が紙の上に写し取った図なのだ。 名裁判官と言われた人々が、一様に言っているのが「刑事裁判とは無罪の発見だ」。 警察・検察が描いた有罪になるように並んでいる星座が、皆正しいのなら裁判は要らない。100に一つ、10に一つかもしれない「無罪」を発見して、「司法=正義」を実現するのが「裁く人」の役目だ。 全国民を代表して、日本国のために。 現在の裁判員裁判は、裁判員の前で公判が始まる前に、裁判員を入れない「公判前整理手続き」で、検察、弁護両側が、どういう主張をし、どういう証拠を出すか、それを何分使って法廷で証拠調べするかまで完全に決めて、盛り付けたフルコース料理のように、皆さんの前に出される仕組みだ。 分刻みで決められた公判日程の中で、星座にはないはずの星を取り除いて考えたり、まして隠された星があるのではないかと気づいたりすることは、難しい仕事だ。 ただ6月22日に千葉地裁で出された無罪判決で、検察関係者は言った。「(この程度の証拠でも)裁判官は密輸の実態を理解して有罪認定してくれていたところがある。裁判員裁判ではいつか無罪は出ると思っていた」。裁判員は会見で「確実な立証は一つも無い」「検察にもっと頑張れという気持ち」(毎日新聞東京版23日付)。 裁判官と検察官の仲間意識で保たれてきたところもある99.9%有罪を市民参加が糾すことができるなら、捜査の厳正化にもつながる。朝日新聞社説(6月24日付)は新検事総長に「国民こそ主人公」の協働を求めた。裁判員制度の改善もその一つだろう。そうなることを願いながら、この連載を終わる。ご愛読ありがとうございました。 '10/07/02 掲載
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