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'08/05/21 夕刊掲載 
美登里のオフタイム

〜 76 〜

いいかげんに聖火!

5月は誕生月記念と題して、去年から友人3人で1泊旅行をしている。食べたいもの、行きたい店を1つ決めてそれだけのために遠出する、という贅沢(ぜいたく)な企画だ。今年の目的地は『唐津』。佐賀の唐津市にスゴ腕の鮨(すし)職人がいる、という記事をグルメ雑誌の巻頭に見つけてピン! ときた。「今年は唐津にお寿司(すし)を食べに行こう♪」「えー、カツラってどこぉ?(カラツだよ!)」。飛行機の早割りチケットをゲット、福岡に到着したら、そこからレンタカーで高速に乗り、約50分で唐津に到着だ。

 沖縄を除いたすべての県を仕事で訪れてはいるが、正直土地柄を楽しむには至らない。昼過ぎに現地に着くと楽屋のお弁当を半分食べ、リハーサル→コンサート本番→握手会など、終われば軽く夜10時を回っている。本番前に食事すると気持ちも体も緩んでしまいそうで、夕食は原則として取らないとなると、空腹は感じるが、夜11時からの食事処(どころ)といえば居酒屋くらいしか見当たらず、風邪気味の日などは、夕食用の楽屋弁当抱えてそのままホテルに戻ることもある。でも私的には全く不満ではない。だって、その日会場で会えた土地の人とたくさんの幸せを共有できたのだから心はニッコニコ、楽屋弁当とコンビニで買ったアイスクリームとシュークリームまたはプリンをゆっくり食べて、あとは地方局の深夜番組など見つつスヤスヤ…。これも立派に『旅の贅沢』なのだ。

 佐賀を仕事で訪れた時、タクシーの運転手さんが「唐津はよかとこですばい」とおっしゃっていたのがずっと心にあった。映画『グランブルー』のモデルのジャック・マイヨール氏が初めてイルカと出会い、フリーダイビングに目覚めたのも唐津の海。その海も見たいけど、そこの港の呼子町で獲(と)れるイカが最高においしいということで寄り道することに(ありゃー)。さらに、佐賀の米もまたおいしいということで、日本の棚田100選に選ばれた玄海町の棚田にも立ち寄ってみた。

 狭い段々の土地を耕し、田植えの終わったばかりの青々とした苗は、水鏡にその姿を映しながら、この世のすべてが清らかに思えるほどのすがすがしさで、皐月(さつき)の風にそよいでいた。棚田の谷間の向こうには玄界灘の海が太陽に反射してプラチナに輝いている…、私たちはしばらく我を忘れ風景に見とれ、ゆっくり深呼吸した。棚田の和の美に触れ、匠たくみの鮨を堪能し、翌朝呼子の朝市でおばちゃん手作りのらっきょう漬けなどを土産にイカ三昧(ざんまい)の昼食の後、夕方には東京に着くという、1泊2日の小旅行。旅の贅沢は、贅沢な化粧品より即効で、私の心にしっとり潤いを与えてくれる。

(辛島美登里=シンガー・ソングライター)

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